引きこもりのまま親が死んだらどうなる?親の死後に来る手続き・お金・生活保護を順番に整理
先に言うと
- 親が亡くなったあとに来るのは、主に「届け出」「お金の切り替え」「相続をどうするか」の3つ。死亡届は7日以内、相続放棄は3か月以内など、期限が決まっているものがある
- お金が尽きそうなときの公的な受け皿は生活保護で、窓口は福祉事務所。その手前で生活全般を相談できる窓口(自立相談支援機関)もある
- 自分の場合、夜中の検索をいくら重ねても楽にならなかった。楽になったのは、「自分が何を知らないか」を紙に書き出して、一回だけ備えたときだった
親が死んだら、自分はどうなるのか。
引きこもっていた頃、自分は夜中にこの言葉を何度も検索した。今この言葉で検索すると、上の方に出てくるのは、親向けに「子どものためにできること」を書いた記事が多い。
ここでは、親ではなく、引きこもっている本人に向けて書く。親が亡くなったら何が来るのか、それはいつまでに何をすればいいのかを、法律や国の資料で確かめて、順番に並べる。
なお、ここに書くのは一般的な仕組みだけだ。家の財産や家族の状況で、やることは変わる。実際に動くときは、それぞれの窓口で確かめてほしい。
カゲの場合
「8050」という言葉で、自分の話だと気付いた
「8050問題」という言葉を最初に見たとき、自分はまだ親の家にいた。80代の親が50代の引きこもりの子を支えている、という意味だと知って、最初に思ったのは「これ、何年か後の自分の話じゃないか?」だった。
それまで自分の中の親は、なんとなく「ずっと元気でいる人」だった。家でずっと顔を合わせていると、親が老いていく速度に気付きにくい。その思い込みが、数字を見た瞬間にちょっと崩れた。
夜中の検索は、答えをくれなかった
それから、夜の検索ワードが変わった。「親 死亡 手続き」「引きこもり 親が死んだら」「8050問題 自分」。布団の中で何度も検索した。
検索しても、答えは出ない。でも検索せずにはいられない。親が死んだら自分は何で食っていくのか、という不安は、夜になると昼の何倍も重くなった。
紙に書いたら、「知らない項目リスト」になった
引きこもりから抜けたあとの話だけど、ある日、「自分が今、何を知らないか」を紙に書き出してみた。親の年金額、親の貯金がどこにあるか、家が持ち家か賃貸か、親の保険の有無、自分が世帯主になったときに毎月いくら要るか。書いてみると、意外と少なかった。
紙に書いた瞬間、漠然と怖かったものが、ただの「知らない項目リスト」になった。調べても怖さが消えるわけじゃない。でも、「親が死んだら詰む」という漠然とした恐怖が、「親が死んだら、役所でこういう手続きが要る」という輪郭のある恐怖に変わった。輪郭のある恐怖の方が、扱いやすかった。
怖かったのは、お金より手続きだった
リストを書いてみて気付いたのは、お金そのものより、お金にまつわる手続きの方が重いということだった。役所に行って、書類を出して、人と話す。長年使っていない「人と会って手続きする力」が錆びていて、たぶんそこで詰まる。
自分は役所の窓口が怖かった。番号札を持って待つ時間に耐えられなかったし、「扶養に入ってますか?」と聞かれても答えられなかった。保険証がどこにあるかすら把握していなかった時期もある。
ただ、あとから調べて、役所の手続きの結構な部分が郵送やオンラインで済むことを知った。下に書くとおり、親の年金を止める届けも郵送で出せる。窓口に行けないことと、制度を使えないことは、イコールじゃなかった。
親が元気なうちに、聞いておいてよかったこと
あとから思うと、親が元気なうちに聞いておいてよかったのは、親の銀行、生命保険、家が持ち家か借家か(ローンが残っているか)、遺言書の有無、兄弟姉妹との相続の取り決めだった。
改まって聞こうとすると、親も警戒する。全部を一気に聞かなくていい。親の体調の話や、近所の誰かが亡くなった話をしている流れで、ついでに1個ずつ聞くくらいでちょうどいいと思う。聞いたメモは、紙に書いて引き出しの奥にしまっておく。
少しだけ準備している状態が、不安を下げた
将来の不安が少し軽くなったのは、ポイ活で月3000円ぐらいが安定して入り始めた頃だった。月3000円は、親の死後の生活に対しては、ほとんど何の解決にもなっていない。それでも、「何もしてない」から「少しだけ準備してる」に変わったことが、夜の不安の量を地味に減らした。
考えるのを、いったん保留にした
ある時期、親の死後について考えるのを、意図的にやめた。今考えても、親はまだ生きている。具体的な年数も状況も分からない。考えるほど、現実から離れた最悪のシナリオが作られて、目の前の生活が崩れる。
だから、備えるのは1回、そのあとは忘れることにした。紙に書いて引き出しにしまったら、あとは今日を生きることに戻る。
効かなかったこと
- 夜中に同じ言葉を何度も検索すること。 答えは出ないのに、検索するのをやめられなかった
- 毎日、親の死に備えようとすること。 引きこもりの夜が全部、親の死の準備で埋まる。しんどすぎた
- 「もうこの歳まで来てしまった」と自分を責めること。 自責の量を増やしても、状況は1ミリも変わらなかった。むしろ動けなくなった
親が亡くなったあと、期限があるもの
期限が決まっているもののうち、引きこもっている本人に関わりやすいものを並べる。全部ではなく、財産の状況などで、ほかの手続きが要ることもある。
| 期限 | 何をするか | どこへ |
|---|---|---|
| 死亡を知った日から7日以内 | 死亡届を出す | 市区町村の役所 |
| 14日以内 | 国民健康保険に入る届け出(親の勤め先の健康保険の扶養に入っていた場合など) | 住んでいる市区町村 |
| すみやかに | 親が年金をもらっていたら、年金を止める届け出 | 年金事務所(郵送・電子申請でも出せる) |
| 相続が始まったと知ったときから3か月以内 | 相続を放棄するなら、家庭裁判所に申し出る | 親の最後の住所地の家庭裁判所 |
出典:戸籍法、国民健康保険法、民法、日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」、裁判所「相続の放棄の申述」
この表の中で、引きこもっている本人が一人でやるのが一番きつそうなのは、たぶん死亡届だ。ただ、死亡届は同居していない親族も出せる。兄弟や親戚がいるなら、ここは頼っていい部分だと思う。
1. 健康保険:親の扶養に入っていたかどうかで変わる
親の勤め先の健康保険の扶養に入っていた場合、親が亡くなると、自分もその保険から外れる。ほかの保険に入らないなら、住んでいる市区町村の国民健康保険に入ることになり、世帯主が14日以内に届け出る。親が亡くなったあとなら、その世帯主は自分かもしれない。
出典:健康保険法、国民健康保険法
ややこしいのは、そもそも自分が今どの保険に入っているのか分からないことだと思う。自分も、親の扶養に入っているのかどうかすら分かっていなかった。これは親が元気なうちに確かめておける項目の一つだ。
2. 年金:止める届けと、受け取れるかもしれないお金
親が年金をもらっていた場合、亡くなったことを日本年金機構に届ける必要がある。届けが遅れると、もらいすぎた分を後で返すことになる場合がある。
子どもに関わりそうなのは、この2つ。
- 未支給年金:親がまだ受け取っていなかった、亡くなった月までの年金。親と生計を同じくしていた子なら請求できる(配偶者がいれば、配偶者が先)
- 遺族年金:対象の「子」は、18歳になった年度の3月31日までの人か、20歳未満で障害等級1級・2級の人。20歳以上の子どもは、この「子」に当たらない
出典:日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」「遺族年金」
自分が昔調べたときは、遺族年金は「要件次第で引き継がれる場合がある」くらいに理解していた。でも、子として遺族年金を受け取る道は、この条件のとおり狭い。
未支給年金の請求は、年金を止める届けとまとめて出せる。年金事務所の窓口に行かなくても、郵送やe-Govの電子申請で出せる。戸籍謄本や住民票などの添付書類が要るので、何が要るかは日本年金機構のページか年金事務所で確かめてほしい。
3. 相続:3か月以内に「受け継ぐか、放棄するか」
親が亡くなると、子は相続人になる。相続人は、次の3つから選ぶことになる。
- 単純承認:家や預金などのプラスも、借金などのマイナスも、全部受け継ぐ
- 相続放棄:プラスもマイナスも、一切受け継がない
- 限定承認:受け継いだプラスの範囲で、借金を引き受ける
相続放棄か限定承認をするなら、相続が始まったと知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に申し出る必要がある。3か月以内に何もしなければ、単純承認したものとみなされる。
出典:民法、裁判所「相続の放棄の申述」
気をつけたいのは、3か月の間でも、親の財産を処分すると、単純承認したものとみなされることがある点だ。そうなると、あとから相続放棄はできなくなる。何が「処分」に当たるかは、自分で判断しない方がいい。親に借金があるかもしれないなら、親の預金や持ち物に手をつける前に、家庭裁判所や司法書士・弁護士に確かめてほしい。
調べても3か月で判断できないときは、家庭裁判所に期間を延ばしてもらう申し立てができる。3か月が過ぎてからでは間に合わないことがあるので、迷っているなら期限の前に家庭裁判所に相談してほしい。相続放棄の申し出の費用は、収入印紙800円分(申し出る人1人につき)と、連絡用の郵便切手だ。
相続は、家族の状況で答えがまったく変わる分野だ。家を受け継ぐのか、売るのか、放棄するのか。ここは自分が「こうしろ」と言える話ではない。迷ったら、家庭裁判所の案内や、司法書士・弁護士に相談する選択肢があることだけ覚えておいてほしい。
4. お金が尽きそうなとき:生活保護
親の年金や収入で暮らしていた場合、親が亡くなると、その収入がなくなる。手元のお金で暮らせなくなったときの公的な受け皿が、生活保護だ。
預貯金や、生活に使っていない土地・家屋、年金などほかの制度、親族からの援助。それを使っても、収入が国の基準の「最低生活費」に足りなければ、足りない分が出る。
- 窓口は、住んでいる地域の福祉事務所(福祉事務所がない町村は、町村役場でも申請できる)
- 結果は、申請した日から原則14日以内に出る(最長30日)
- 申請のあとに、預貯金などの資産や、親族が援助できるかどうかの調査がある
- 当座の生活費もないときは、社会福祉協議会の貸付を使える場合がある
出典:厚生労働省「生活保護制度」、同「生活保護制度に関するQ&A」
自分が気になっていた「住んでいる持ち家はどう扱われるのか」は、確かめられた国の資料には、はっきり書かれていなかった。持ち家に住んだまま受けられるのかどうかは、ここで断定しない。福祉事務所で聞くのが確実だと思う。
もう一つ、正直に書いておく。生活保護のページには「働くことが可能な方は、その能力に応じて働いてください」とあり、受給中も「就労の可能性のある方」には助言や指導をする、と書かれている。働けるかどうかの事情は、相談のときにそのまま話していい部分だと思う。
親の葬儀代が出せないときのことも、少しだけ。生活保護には「葬祭扶助」という種類があって、困窮のために最低限度の生活を維持できない人が葬祭を行う場合などに、火葬や納骨などの範囲で出る。自分の場合に当てはまるかは、これも福祉事務所で確かめてほしい。できれば、葬儀の手配をする前に聞いておく方が安全だと思う。
出典:生活保護法、厚生労働省「生活保護制度」
兄弟がいる場合
兄弟がいる人は、「兄弟に迷惑がかかるのでは」というのが一番重いかもしれない。法律と国の資料で分かることは、これくらいだ。
- 相続では、子どもは同じ立場。子が何人かいるとき、それぞれの相続分は等しい
- 兄弟姉妹には、お互いに扶養する義務があると民法に書かれている
- 生活保護の申請では、兄弟などが援助(仕送りなど)できるかどうかの調査がある
出典:民法、厚生労働省「生活保護制度」
扶養の義務があることと、兄弟が実際にどこまで援助できるかは、別の話だ。兄弟にも自分の生活がある。調査があるからといって、生活保護を申請してはいけない、ということにはならない。
親の死後のことは、兄弟と一度も話していない人も多いと思う。いきなり全部を話さなくていい。死亡届を出してもらえるか、相続の手続きをどうするか。親が亡くなった直後に、誰が何をやるかだけでも決まっていれば、違うと思う。
相談先:話すのが怖い人向けに
親の死後のことで相談できる公的な窓口は、いくつかある。
| 窓口 | どんな場所か |
|---|---|
| 自立相談支援機関 | 仕事・住まい・家計など、生活の困りごとを相談できる |
| ひきこもり地域支援センター | 全ての都道府県・指定都市にある。本人からも家族からも相談できる |
| 福祉事務所 | 生活保護の相談・申請の窓口 |
| 年金事務所 | 年金の届け出・請求。死亡の届けと未支給年金の請求は郵送で出せる |
| 家庭裁判所 | 相続放棄・期間を延ばす申し立て |
自立相談支援機関の窓口一覧は「自立相談支援機関 相談窓口一覧」にある。ひきこもり地域支援センターの連絡先は、厚生労働省の「ひきこもり支援に関する取組」のページから探せる。
厚生労働省の資料には、79歳の父と暮らす51歳のひきこもりの人の話が載っている。支援員は最初本人に会えず、部屋の前に手紙を置くなどして関わりを続けた。父の入院をきっかけに、本人から自立相談支援機関に連絡が入った、という流れだった。
出典:厚生労働省「ひきこもり支援施策について」
親が元気なうちに、今夜できること
- 「自分が知らないこと」を紙に書き出す。 親の年金、預金のある銀行、持ち家か賃貸か、保険、自分がどの健康保険に入っているか。答えは書かなくていい。項目だけでいい
- この記事の期限の表を、そのメモに写しておく。 死亡届7日、国民健康保険の届け出14日、相続放棄3か月
- 住んでいる地域の窓口を、一つだけ調べておく。 自立相談支援機関か、ひきこもり地域支援センター。今連絡しなくていい。名前と連絡先を控えるだけでいい
- 書いたら、引き出しにしまって忘れる。 備えるのは1回でいい
よくある疑問
親が死んだら、すぐに生活保護を受けられる?
すぐかどうかは、資産や収入による。生活保護は、預貯金などを使ってもなお生活に困る場合に受けるもので、申請してから原則14日以内(最長30日)に結果が出る。自分の預貯金や、相続で受け継いだ財産があれば、まずそれを使うことになる。ただ、相続放棄を考えているなら、親の預金などに手をつけると放棄できなくなることがある。相続のことも含めて、福祉事務所に相談するときにそのまま話してほしい。
親に借金があったら、自分が払うことになる?
相続を単純承認すれば、借金も受け継ぐことになる。受け継ぎたくないなら、相続が始まったと知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄を申し出る。ただし放棄すると、家や預金などのプラスの財産も受け継がない。3か月の間でも、親の財産を処分すると放棄できなくなる場合がある。何が処分に当たるかは自分で判断せず、親の預金や持ち物に手をつける前に、家庭裁判所や司法書士・弁護士に確かめてほしい。
親の遺族年金は、自分がもらえる?
遺族年金の対象になる「子」は、18歳になった年度の3月31日までの人か、20歳未満で障害等級1級・2級の人だ。20歳以上の子どもは、この「子」に当たらない。ただし、親と生計を同じくしていたなら、親が受け取っていなかった分の年金(未支給年金)を請求できる。
兄弟に頼りたくない。どうすればいい?
兄弟には法律上の扶養義務があるし、生活保護の申請では兄弟の援助ができるかどうかの調査もある。ただ、それは兄弟がどこまで援助できるかを確かめるもので、兄弟に頼らなければ生活保護を申請できない、という意味ではない。頼りたくない事情があるなら、それも相談の場でそのまま話していいと思う。
窓口に行けない。電話も無理
親の年金を止める届け(未支給年金の請求も兼ねる)は、郵送やe-Govの電子申請で出せる。相続放棄の申述書の書式と記載例は、裁判所のページに載っている。生活保護は、厚生労働省のページでは窓口での事前相談が大切だとされている。どうしても一人で行けないなら、兄弟や親戚に一緒に来てもらう形も考えていいと思う。
親が死ぬことを考えると、消えたくなる
そこまで来ているなら、一人で抱えなくていい。電話が無理でも、SNSやチャットで相談できる窓口がある。厚生労働省の「まもろうよ こころ」に、電話・SNSの相談窓口がまとまっている。
まとめ
- 親が亡くなったあとに来るのは、届け出・お金の切り替え・相続の3つ。期限つきのものには、死亡届7日、国民健康保険の届け出14日、相続放棄3か月などがある
- 遺族年金の「子」は年齢で区切られていて、大人の子どもは当たらない。ただ、生計を同じくしていれば未支給年金は請求でき、年金事務所に郵送で出せる
- お金が尽きそうなときは生活保護。窓口は福祉事務所。生活全般の相談なら自立相談支援機関、引きこもりの相談ならひきこもり地域支援センターがある
- 兄弟には扶養義務があり、生活保護では援助の可否の調査もある。ただ、それで申請できなくなるわけではない
- 自分に効いたのは、夜中の検索ではなく、「知らないこと」を紙に書き出して一回だけ備え、あとは忘れることだった
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